2008-04-16 シーファー駐日米国大使の隠し事
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| シーファー駐日米国大使の隠し事
2008年3月22日に付けの毎日新聞の記事「クローズアップ2008:児童ポルノ禁止法改正 ネットで拡散、被害増え」におけるシーファー駐日米国大使の談話がかなりの話題を呼んでいます。 『米国では[児童ポルノの]単純所持の禁止対象にマンガやアニメも含めている。実在する子どもが撮影された画像とは違うが、子どもの育成上役立つと思えないうえ、犯罪行為に向かう刺激を与えると考えるからだ。』*1 確かに米国では2003年に特定の部類のマンガ・アニメを違法化しました。 2002年に米国最高裁はヴァーチャル児童ポルノを違法化を試みた1996年のChild Pornography Prevention Act(児童ポルノ防止法)に対して違憲と言う判断を下しました。しかも9人いる判事が6対3という割合で違憲と認定した事は当時随分話題になりました。この時に最高裁は色々な観点から実在する未成年者を含まない児童ポルノを全面禁止するのは過剰であると指摘しています。 1)同法律は表現の自由が保障されている猥褻ではない表現も違法化している。
3)と6)の条項がシーファー大使の主張と矛盾しているのは注目に値します。シーファー大使が「米国」と言っている部分は実際には「行政と立法」と書くべきです。シーファー大使と同じ考えを持つ人は米国には沢山居ますが、このような規制は過剰であると考えている人もまた確実に居ます。こともあろうに最高裁が異議を唱えているのは決して無視できないはずです。 しかしながら2002年の最高裁の判決に不満を持つ人は数多く居ました。半年もしないうちに新たな法律が連邦議会で可決されて、2003年にブッシュ大統領の署名をもってProsecutorial Remedies and Other Tools to end the Exploitation of Children Today Act(「今日をもって児童の搾取を終焉させる為の検察的解決策とその他法」)と言う法律が設立されます。 この法律は法の名前の頭文字をとって2003年のPROTECT法として知られています。この法律では最高裁の先の違憲を判決を踏まえていくつか定義を調整しています。まず擬似チャイルドポルノの定義を狭め、本物の未成年ポルノ画像と「見分けがつかない」("indistinguishable")コンピューター画像を禁止としています。これによって明らかに実在の児童の写真にしか見えない画像であっても、児童の身元が判明しないなどの理由から児童を特定できない場合でもその所持者や配給者を追及できるようにしました。 2003年のPROTECT法のもう一つの大きな変更点は実は米国刑法の猥褻条項に関連しています。猥褻を取り扱う刑法の条項は18章1461、1462、1464、1465、1466項などに集中していますが、PROTECTでは1466Aという条項を追加しています。この条項に於いて「連邦政府の管轄が及ぶ範囲に於いて、実在する・しないに限らず猥褻な描写を含む児童が題材となっている作品」を一律違法化しています。 つまり「猥褻ならば表現の自由が当てはまらないので、偶像児童ポルノも違法化できる」ということです。 この条項は非常に興味深い側面があり、猥褻法の条項でありながら、その処罰規定は児童ポルノ法に準ずるとなっています。つまり猥褻表現で性犯罪者と同一の扱いを受けるということです。児童を毒牙に掛けるような行為の産物に関わる人間を激しく罰するのは当たり前ですが、PROTECTのお陰で実在の児童と一切関わらない人間にも等しく厳しい量刑を適用される規定が用意されたわけです。更に猥褻は配給・展示・販売は違法ですが、所持は合法です。私的範囲に於いて製造も合法です。ところが1466Aの規定する猥褻偶像児童ポルノの条項においては所持も違法としています。 しかしそれでは米国での「猥褻」とはなんでしょう? 1973年の最高裁のミラー判例が現在の米国の猥褻の基準となっています。現在アメリカで特定の表現が猥褻と認定されるのは次の三つの条件が判断基準の焦点となります。 1)一般市民の視点からして、在住する地域の基準を踏まえ、特定の表現の全体が「好色な興味に訴える」表現と認められる。
この三つの条項を満たしていると法廷の場において認められたモノのみが米国では猥褻と認定され、表現の自由が及ばないものとされています。 「在住する地域の基準を踏まえ」という条項は非常に重要です。地域の独自性と文化の違いを認定している条項であり、上下をつけていません。この為に米国では複数の猥褻の基準があるといっても過言ではありません--非常にリベラルなロスやサンフランシスコ、ニューヨーク・シカゴ・シアトルに置ける基準とユタ州の片田舎やオクラホマ州の辺境の基準は非常に異なります。全米のアダルトビデオの多くはロスアンゼルスで制作され、成人向け出版物がニューヨークなどの都市に集中しているのは理由があるのです。ロスで作ったものをユタ州や違うところで作った場合、その地域の猥褻基準に引っ掛かる可能性があります。事実、テキサスでは同性愛を違法化する「ソドミー法」がごく最近(2003年)まで法文としては有効となっていました。(実際には最近は滅多に運用される事がなく、有名無実となっていましたが、2003年の最高裁判決をもってようやく違憲と認定されて、無効になりました。)それまでに全米の猥褻基準はばらつきがあります。 シーファー大使の言う「[児童ポルノの]単純所持の禁止対象にマンガやアニメも含めている」は非常に限定された禁止条項であり、実際には「偶像の児童ポルノ」ではなく「猥褻な偶像の児童ポルノ」に限った話なのです。猥褻か否かの線引きは明確ではないので、この点は非常に重要な意義を孕んでいます。 更に日本ユニセフ協会のホームページで偶像ポルノを違法化を肯定する材料として「米国でも2006年に、日本製の子どもポルノマンガ・アニメの所持に対する有罪判決が出ています。」*2と主張しています。 確かに2006年にヴァージニア州においてドワイト・ウォーリーという性犯罪の前科を廻る執行猶予期間中に州政府の職業安定所から日本のマンガ画像をダウンロードしたのを目撃され、追及したところオンラインのYahooアカウント内で実在児童ポルノの所持が発覚され、逮捕・有罪判決を受けています。 しかしこれが偶像児童ポルノの全面違法化を認定した判例と認めるにはやや難があります。まず第一に被疑者が性犯罪暦のある人物の為、法廷の場において「偶像ポルノが違法化どうか」よりも「この特定の性犯罪者を社会から隔離すべきか否か」が重要な点となったと思われます。第二にこの裁判は控訴されず、そのまま止まっています。この1466A条項の合憲性はまだ確認されていません。そして最後に奇妙なことにこの事件以降、1466A条項を活用した起訴が確認されていません。連邦検事局が1466A条項をどんどん活用すべしと記者会見などで喧伝しているにも関わらずです。 これらを鑑みると2003年PROTECT法が設立した1466A条項を活用した偶像児童ポルノの違法化は非常に脆い側面があり、違う国における法設立の模範としてはあまりにも脆弱と言わざる終えません。多くの米国の法律専門家も場合によっては落書きを描いただけで人を性犯罪者扱いできるこの方の条項の合憲には疑問を投げかけています。*3 現在進行中の審議もあります。既に連邦第11管轄区控訴院は2003年のPROTECT法を部分的には違憲と認定しています。具体的には実在・偶像に限らず児童ポルノの廻る取引を示唆する斡旋やフレコミをするする行為自体を違法化する条項をPROTECT法は含んでおり、これを廻り現在最高裁で審議中です。PROTECT法が制定した2252A条項において、実際に児童ポルノを所持していなくともその人間の言動を通して所持を示唆するだけでも違法としているのについて2007年10月に最高裁で弁論がなされ、今年の夏までには決着がでる筈です。*4 シーファー大使は米国では偶像児童ポルノの取扱について既に決着済みであると示唆していますが、少しでも英語の資料を目を通せば実際にはまだまだ論議の対象となっているのを確認できます。 「児童ポルノ問題」に限らず、米国と日本の間では文化的背景や法律運用事情が大きく異なる側面があります。米国の事情の動向に日本での議論を直結するにはやや乱暴だと思いますが、それ以上に北米でもまだ議論がまとまっていない側面を捨て置き、偶像児童を取り扱った性描写を含む表現作品の広範囲な規制をあたかも米国の総意として日本に要望する姿勢には憤りを感じえずに居られません。
兼光ダニエル真
注釈: *1: http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20080322ddm003040104000c.htmlより
2008年4月24日に一箇所解り難い所を改訂しました: 改訂前:
改訂後:
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改訂後:
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